商品一つひとつにあるストーリーから、ファンをつくる

——海外展開をしたことがない淡路島の生産者たちにとって、課題となるのはどのようなところでしょうか?

福山 ボトルネックになるのは、ロット数です。以前、いちご農家さんの味に惚れ込んだ香港の会社が購入を希望されたのですが、納める生産量は数トンレベルなんですね。3人程度で手摘み収穫をしている農家さんにとって、それは現実的ではない。かといって、工場でシステムを導入して量産するようなことがあると、いちごの一つひとつを丹念につくることができない、という葛藤に陥りました。これは、海外への販路拡大の課題です。小ロットで輸送したくても、物流コストは上がっている状況なので、コストや賞味期限との闘いになります。

——そこを乗り越えていくためには、どのような施策が必要と考えていますか?

福山 淡路島にまず来ていただくために「真っ先にこちらから出会いにいく」ということが必要なのかなと思っています。商品を送るあるいは直接会いに行き、興味を持っていただいたら実際に淡路島に来て生産者さんに会って帰ってもらう。友人を「応援したいな」と思うような感覚になっていただける関係構築をすることで、毎月淡路島から届くものが楽しみ、となるようにしていきたいです。

地元事業者や住民たちとのコミュニケーションを大切にしながら地域活性化に取り組む中で、福山さんはいつでもビジネスの視点を忘れません。地元事業者たちが淡路島の地で持続可能なビジネスにする仕組みづくりを常に思考しています。

——2月には生産者向けの説明会を実施されましたが、どんな方たちが参加されたのでしょうか?

福山 セミナー形式ではなく個別相談会という形をとりました。そこで「淡路堂」の参画やECに興味・関心のある5社が参加してくださいました。老舗から立ち上げたばかりの会社まで会社規模は特に問わず、さまざまでした。1社につき1時間半ずつ、じっくりと話をしましたよ(笑)。

――1社1時間半……! デジタルマーケティングは複数のチャネルで消費者の属性や個々のニーズにマッチしたアプローチを可能にしますよね。観光客ら消費者にアナログな手法を中心としてきた生産者にとって、説明会はデジタルマーケティングの手法に触れ、改めて販促方法を見直せる機会にもなったのではないでしょうか?

福山 そうですね。モール型のECが激化している現状がある中で、デジタルマーケティングにつなげて販路を拡大するためにも、ECの取り組みをさらに強化したいと考えている事業者やECを始める意思のある生産者や事業者に来ていただいたんです。そうした方たちが発信することで、周囲の人たちもあとに続くようになるのではないでしょうか。

——まずは「淡路堂」がどのように多くの方に認知してもらうかというところが重要になってきそうですね。

福山 実際に説明会をして出会った生産者さんの話で、神戸牛や松阪牛の幼少期の仔牛は淡路で育てられていることを知りました。こうしたことを、意外と国内でも知らない人は多いですよね。情報や背景をしっかりと発信することは、島の魅力を高めるひとつの要因だと思います。

「淡路堂」はあくまでもツール。私は、淡路島に特化したプラットフォームをつくることが目的というよりも、淡路島のブランディングが重要だと考えています。生産者と消費者をつなげるということが、私たちの目指すツーリズムなので商品のストーリーを伝えるなど見せ方は考えていく必要があると思っています。