Project #01
地域産業の魅力発信・リアル体験型オンラインツアー
——With The World

今回登場していただくのは、「地域産業の魅力発信・リアル体験型オンラインツアー」を行った、株式会社 With The Worldの代表取締役社長 五十嵐駿太さん。

大学生時代に、電車内で見かけた貧困問題を訴える広告。その現実に衝撃を受けた五十嵐さんは、実際に自分の目で確かめようと東南アジアへと足を運びました。約5カ月もの間、各地をまわり現地の厳しい貧困を目の当たりにします。学校へ行きたくとも行けない子どもたちとの出会いから、教育機会の重要性を痛感しました。

この忘れられない経験を経て、2018年に神戸の地で、「世界共同で社会問題の解決に向けて働きかけ続ける未来をつくる」「経済格差関係なく国際交流ができる教育環境をつくる」「没頭できる自分自身のテーマを見つけ、行動することができる人を育む」「文化や考え方の違いを受け入れ、協働できる人を輩出する」を理念とした、With The Worldを立ち上げました。

五十嵐さんが事務所を構える起業プラザひょうごは、起業やコラボレーションの支援が行われる場所です

With The Worldでは、日本の中学・高校・大学と連携し、東南アジアなどの現地学生と「オンライン国際交流授業」や「海外スタディツアー」を実施し、学生たち自身が社会問題に取り組む問題解決型プログラムを開催しています。

今回「兵庫県IT人材育成プロジェクト」でWith The Worldが実施した企画が、「地域産業の魅力発信・リアル体験型オンラインツアー」。この企画について五十嵐さんと、企画に賛同し協力した神戸に拠点を置く旅行会社、株式会社ビートラベル 代表取締役の渡邊華穂さんのおふたりにお話をうかがいました。

 

まずは知ること。それが地場産業の抱える問題解決の糸口に

——With The Worldは、日本と海外の学生をつなぐ国際交流プログラムをメインに実施されています。事業内容とは少し違った「兵庫県IT人材育成プロジェクト」に、今回なぜ参加することになったのでしょうか。プロジェクトに参加するに至ったきっかけや経緯を教えてください。

五十嵐駿太さん以下、五十嵐) 我々は、「教育×グローバル」を事業の柱としていますが、このテーマの目指すところは「相手のことを知る」ということだと思うんです。

日本の学生たちが海外の学生とコミュニケーションをとる時に、日本や自分の住んでいる地域について聞かれることが多く、日本の学生たちがうまく答えられないということもありました。そこで、地域について目を向けるきっかけを作れたら、という思いがありましたね。

地場産業の方々の作り手の想いや商品のこだわりを知ることは、学生や一般の方、また地場産業に関わる人たちにとっても、お互いのメリットになるように思います。

それと当時に、地場産業の方たちが今回のプロジェクトでITに触れることにより、販促につながったり、あるいは新たなIT人材育成を推進したりなど、地域活性に貢献ができれば、という思いもありました。もちろん、コロナ禍で経営が大変ななか、少しでも力になりたいということも理由のひとつです。

そういうことを、同じオフィスビルで働くビートラベルの渡邊さんと話しているうちに、協力して何かできるんじゃないかと思い、今回のプロジェクトを企画することにしたんです。

プロジェクトを主催したWith The Worldの五十嵐さん

渡邊華穂さん以下、渡邊) 弊社も神戸を拠点に置く会社でして、コロナ禍でインバウンド需要がなくなり、日本国内でも旅行や外出を控えるなか、以前から行っていたオンラインツアーに力を入れることになったんですね。感染防止対策のために大勢で出かけることができなくなったので、学校や企業の研修ツアーなどの需要が多く、オンラインツアーへの手応えを感じていました。何か地域の活性化につながることができないかと、地元の酒蔵や神戸牛の肥育農家にオンラインでつないで参加者に体験ツアーを楽しんでいただくという企画を立てると、多くの方に喜んでいただけて。

地場産業の方たちとのリレーションを持っていましたので、地場産業が抱える問題や課題にも触れる機会がありました。

今回のプロジェクトでは体験ツアー参加者に地域を知ってもらうことに加え、地場産業の方々自身がITに触れる機会になって、少しでもそういった問題解決の糸口になればと思い参加させていただきました。

——このオンライン体験ツアーはITを使って地域や地場産業の魅力を知ってもらうということの他に、地場産業に関わる方たちが抱える問題解決に向けての側面もあるのですね。では、具体的に問題とはどういったことでしょうか。

渡邊 ひとつは働く方たちの「高齢化」です。これはどこの地場産業でも抱えている問題だと思いますが、歴史ある酒蔵や有名な老舗店でも、高齢化問題に猶予がない状態だと感じます。またもう一つは、高齢化に付随しますが「後継者不足」ですね。

五十嵐さんと「いっしょに何かやりたい」という思いが、ようやく実現したと話すビートラベルの渡邊さん 

五十嵐 働き手が高齢化することにより、ITスキルを持った人材が育たずまったくDX化しない、という現状があります。DXが進まないので、作業の効率化や多様なプロモーション展開、販路開拓や拡大などが困難で、結果として若い働き手が見つからない。

この問題を解決するために我々が考えたのは、まずはこれから将来を考える若い人たちに地場産業に触れて知ってもらうこと。「若者の日本酒離れ」と言われていますが、実際に酒造りの裏側や作り手の想いに触れることで、より商品の魅力や価値というものが伝わりやすくなります。また、畜産の現場や酒造り、パティシエの仕事などリアルに感じてもらって、これから自分の職業を考えるとき選択肢の一つとして加えてもらえたらいいなと思います。