丹波のお米、そして産地そのものをブランディングしたい

——「Rice Terroir」事業についてもおうかがいします。全国的な知名度はないものの、丹波エリアは稲作を長く行ってきた歴史がありますね。

安達 丹波篠山は「東の魚沼、西の篠山」と呼ばれるほどの米どころなのですが、関東の方はほとんど知らないですよね。それはもどかしいな、という思いは以前からありました。そもそも「Terroir(テロワール)」というのはフランス語で、主にワインや茶葉などの産地における土壌や天候など、味わいや風味を決定づけるものを指します。例えば、ボルドーワインやブルゴーニュワインはワインとしても人気ですし、産地自体も観光地になっていて、双方のブランド価値を高めていますよね。そういった、産地の土壌や気候は一朝一夕でできるものではないから、数値分析をすることでこの土地の「テロワール」に価値があることを客観的な情報で説明できるようになるんじゃないかなと思い、今回のプロジェクトを立案しました。

楽天時代、この棚田の風景を見て移住を決めたという安達さん

実際にこの写真の「後川新田」という地域は、約1200年前から奈良の東大寺にお米を献上していた荘園だったという文献が残っています。弊社では一棟貸し宿「NIPPONIA 後川 天空農園」を運営しており、そこから見える田んぼで米づくりをしている農家さんが通常で販売しているJA等の卸価格の2〜3倍の金額でお米を買い取り、食事用としてお客さまに提供しつつ、お土産用として販売しています。こちらも好評で、「百貨店で売っているブランド米よりおいしい」とおっしゃる人も。今回は、お米のおいしさについて客観的な指標がほしいと思い、土壌分析(土に流れる水質分析も含む)を依頼しました。このプロジェクトに関しては、参加者は丹波エリアの農家さんのひとりで、近隣の大規模農場を営む方にコンサルタントとして入ってもらっています。

そこで得た結果を、今後米の販売の際にマーケティングとして使っていくつもりです。

一棟貸し宿「NIPPONIA 後川 天空農園」。扉を開放すると、後ろには茶畑、前には田園が広がります

——実際にはどういった数値が出ましたか?

安達 米の味は環境要因が9割といわれているそうです。この集落は標高500mの山頂に位置し、田んぼより上に溜池もなく、山水しか使えません。

コンサルタントしてプロジェクトに入ってもらった方に、水質分析は「ケイ酸」の値を調べるとよいと教えてもらいました。日本で自然環境が破壊されるにつれて下がっている数値で、環境の指標にも使われる数値です。この値は全国平均が10ppm、全国の最高値が36ppmと聞いているのですが、天空農園の農地に流れる山水には2倍の20ppm程度の「ケイ酸」の値が出ました。また、他の数値に関してもほぼ不純物がまざっていないとてもクリアな水だということが客観的に証明できました。

土壌分析も専門家に依頼して数値を測定してもらったところ、過度な肥料や農薬を撒いていないことがわかりました。同時に、品種改良された現代の「肥料をあげればあげるほど、大きく多く実る」という品種より、原種に近いものを選ぶと良いといえるとのアドバイスをもらいました。

今回はまだテストプロジェクトなのですが、これを他地域に展開していきたいなと思っています。例えば、農地分析をなるべく効率的に最適化し、全国の農家さんが田んぼにアンテナを指しておけば、それぞれの土壌にあったアドバイス――「この時期にこの数字だったら、こういった肥料を入れてください」といったもの――がスマートフォンなどのアプリなどで通知されるようなシステムが構築したいです。そのための方法を今後模索していきたいと考えています。